「有機」「無農薬」「自然栽培」ってどう違うの?お米づくりのホントを聞いてみた

安心・安全なお米と聞いて、まず思い浮かぶのは「有機米」。
でも実際、農薬を使わないお米ってどうやって育てているんだろう?
「有機米」「無農薬」「減農薬」「自然栽培」……よく耳にするけれど、何がどう違うのか聞かれると、ちょっとあやふや。
「体によさそう」「環境にやさしいらしい」そんなイメージはあるけれど、実際のところはどうなんだろう?
そんな素朴なギモンに答えてくれたのが、三重大学大学院・生物資源学研究科の関谷信人先生。化学肥料に頼らず、気候変動のなかでも持続可能な農業を研究している先生に、お米づくりの“ホントのところ”をいろいろ聞いてみました!
お話を聞かせてくれた人
関谷信人先生
三重大学大学院生物資源学研究科教授。作物学者。植物生理の解明からコメの食味評価まで、作物に関する幅広い事象を研究する。近年では、土壌学、微生物学、食品化学、経済学を融合した境界領域にも果敢に挑戦。海外協力隊やJICA技術力専門家として長年アフリカ農業にも関わる。Think Globally Act Locallyをモットーに地域の課題を考察し世界へ発信する研究と教育を実践。

聞き手: ソラミドごはんくん
ごはんが大好き!
ちょっぴりヒツジに似たごはんの妖精。好奇心旺盛で、ごはんのことなら何でも知りたい!聞きたい!見てみたい!と思っている。

そもそも、農薬を使わないお米ってなんだろう?
まず「農薬」とは、除草剤、殺虫剤、殺菌剤、殺鼠剤などの化学合成薬剤を指します。
これら農薬だけではく、化学肥料も一定期間使用せず、国の基準を満たしたものに付けられるのが「有機JASマーク」。
このマークがついたお米が、いわゆる『有機米』です。
ちなみに、国が定める有機農業の定義は次のとおりです。
1)化学的に合成された肥料および農薬を使用しないこと
2)遺伝子組換え技術を利用しないこと
3)農業生産による環境への負荷をできるだけ低減すること
出典:https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/attach/pdf/index-37.pdf

なるほど! ということは、『無農薬米』とは少し違うんですか?
そうですね。無農薬米も農薬を使わずに栽培されたお米ですが、化学肥料を使用している可能性もあり、有機JASのように国の認証を受けることができません。
「農薬を使っていない」という点は共通していますが、制度面での違いがありますね。
そうだったんですね! あと、『減農薬』というお米もよく聞きます。
減農薬は、その名の通り農薬の使用を減らした栽培方法です。いわゆる「特別栽培米」にあたります。
これは、その地域で一般的に行われている農薬や化学肥料の使用量(慣行レベル)と比べて、農薬の使用回数や化学肥料の窒素成分量を50%以下に抑えて作られたものです。
出典: https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/tokusai_a.html
そんな細かい基準があるんですね。ほかにも『自然栽培米』っていう言葉も聞いたことがあります。
ありますね。実は、自然栽培米には、明確な定義や認証制度はありません。
どちらかというと、有機栽培に近い考え方で、できるだけ人の手を加えず、自然の力を生かして育てる農法を指すことが多いですね。
なるほど。似た意味で使われたり、考え方が派生していたりするんですね。
そうなんです。「自然農法」という言葉もありまして、これは自然農法実践家の福岡正信さんが提唱した農法。土を耕さず、農薬や肥料を一切使わず、自然が本来持つ力だけで作物を育てるという考え方です。
同じ“農薬を使わない”でも、栽培方法や理念にはいろんな違いがあるんですね!
<有機米>
農薬を一定期間使用せず国の基準を満たし、「有機JASマーク」がつけられたもの
<無農薬米>
農薬を使用していないが、国の認証制度があるわけではない
<特別栽培米>
農薬や化学肥料の使用量(慣行レベル)と比べて、農薬の使用回数や化学肥料の窒素成分量を50%以下に抑えた「減農薬」で栽培されたもの
<自然栽培米>
できるだけ人の手を加えず、自然の力を生かして育てる農法で栽培された米。明確な定義や認証制度はないどうして農薬を使わない栽培は、大変なの?
農薬を使わない栽培って、体や地球環境にやさしいと言われますが、やっぱりその分、手間ひまがかかるものなんですか?
そうですね。たとえば除草剤を使わない場合、雑草を抜く作業にかなりの労力が必要になります。
田んぼをそのままにしておくと、雑草が養分を吸い取ってしまったり、太陽の光を遮ってしまったりして、稲の生育が妨げられてしまうんです。
結果として収穫量も減ってしまうので、除草作業なしには経営が成り立たないんですね。
たしかに、夏なんかは雑草の伸びもすごく早いですもんね。
そうなんです。殺虫剤や殺菌剤を使わない場合も同じで、病害虫が発生すると収穫量が大きく減ってしまいます。
農家にとってはまさに天敵ですね。それをすべて人の手で防ぐとなると、かなり大変な作業になります。
なるほど。農薬には、効率的にたくさんのお米を収穫するための“助っ人”的な役割もあるんですね。
そうですね。作物が本来持っている力を十分に発揮するためには、「適切なタイミングで」「必要な量」の養分を与えることが大切なんです。
化学肥料は水に溶けやすく、すぐに吸収されるので、その管理がしやすいというメリットがあります。
一方で、有機肥料は養分がゆっくり溶け出すので、タイミングを見極めるのが難しく、人の経験や手間がより求められます。
安心・安全なお米って、農家さんのたゆまぬ努力の上に成り立っているんですね。
なぜ今、有機栽培が注目されているか?
化学肥料や農薬の課題って、最近よく聞くんですが、今どんなことが注目されているんですか?
いろんな観点がありますが、まずは環境問題です。実は、化学肥料をまいても作物に吸収されるのは多く見積もっても50〜60%程度。種類によっては10%に満たないこともあります。
そんなに少ないんですか!
はい。吸収されなかった成分は地下水に流れ出て汚染を引き起こしたり、湖や沼の水質を悪化させる場合があります。さらに水田では、温室効果ガス「一酸化二窒素(N₂O)」の排出にもつながるんです。
それからもう一つは、肥料の“資源”と“コスト”の問題。化学肥料の原料となる鉱物資源は、今世紀中に枯渇すると言われていますし、ここ10年ほど価格も上昇しています。
ウクライナ危機の影響もあって、日本のように肥料を輸入に頼る国では特に打撃が大きい。環境への負荷だけでなく、経営的にも持続が難しくなってきているのが現状です。
やっぱり、農薬は使わないほうがいいの?
そう聞くと、農薬を使わない栽培のほうがいいように思えてきますね。
実は「使う・使わない」で白黒つけられる問題ではないんです。
近年の農薬は研究が進み、安全性は格段に向上しています。
一方で、雑草や害虫が農薬に“慣れて”しまい、効きにくくなる「抵抗性」の問題もあります。ただ、日本では業界全体で協力し、複数の農薬をブレンドするなどの対策が進んでいるため、海外ほど深刻ではありません。
なるほど、日本の農薬開発って進んでいるんですね。
そうですね。ただ、農薬の最大の課題は“消費者の心理的な抵抗感”かもしれません。
日本では「自然のものがいい」という価値観が根強く、たとえ安全だと証明されても避けたいと感じる人が多い。一方、アメリカでは遺伝子組み換え作物でも、科学的に安全とされていれば抵抗なく食べる人が多いです。
たしかに、食文化の違いも大きそうですね。
農家さんにとっては「買ってもらえること」が何より大事です。
だからこそ、日本では“日本人の自然志向”に合った栽培方法を、科学的根拠に基づいて取り入れることが、作る人・食べる人の双方にとって持続的な道だと思います。
自然と科学の融合が理想的なんですね……!
そうですね。農薬を使わない方法にもいろいろな考え方がありますし、中には科学的な根拠があいまいなまま広まっている情報もあります。
でも同時に、「アグロエコロジー」や「オーガニックファーミング」といった、生態系全体を見つめ直す思想や社会運動が広がることで、農業そのものの仕組みを見直す動きも活発になっているんです。
科学と自然、どちらか一方ではなく、そのあいだを探っていく。それこそが、日本の農業を“持続可能な安心・安全”へと導く鍵だと思いますね。
自然を大切にしながら、科学の力もうまく取り入れていく。そんなバランスを探る姿勢が、これからの農業にとっていちばん大切なのかもしれませんね。
今日のお話を聞いて、お米を選ぶときの見方がちょっと変わりそうです。
関谷先生、わかりやすく教えてくださってありがとうございました!
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そもそも「農薬を使わないお米」って、どんなものなんでしょうか?いろいろな種類があると思うのですが、それぞれどんな違いがあるんですか?