台所から、社会へ。農業女子プロジェクトがつなぐ小さな変化の積み重ね|農林水産省・農業女子プロジェクト事務局

農作業で使うスコップに、桜の花びらの形の穴が開いている───
実はこれ、女性農業者の声から生まれた道具のひとつなんです。見た目の美しさだけでなく、機能面でもメリットがあるのだそう。
こうした「現場の声」を出発点に、企業との商品開発や学びの場づくり、全国の仲間とのネットワークを広げているのが『農業女子プロジェクト』です。
2013年の設立以来、全国1,120名の女性農業者と43のパートナー企業が参加し(取材当時)、農業内外と連携して活動を続けてきました。
今回は事務局を務める農林水産省の担当者に、プロジェクトの成り立ちから今の姿まで、たっぷりお話を聞いてきました。
農業女子プロジェクト、はじまりは戦後の台所から
───まずは、プロジェクトの概要を教えてください。

───若い世代が多く参加されているんですね!
就農のきっかけも本当にさまざまで、ゼロから新しく農業を始めた人もいれば、結婚を機に始めた人、実家の農業を継いだ人もいます。一人ひとりが抱えている悩みも、必要としている学びも、みなさんそれぞれ。
そうした中で農業女子プロジェクトは、みなさんが学びたいことに耳を傾け、企業や教育機関、地域社会と連携して、学びの場やつながりの機会をつくるプラットフォームになっています。
───2013年に設立された本プロジェクトですが、誕生した背景を教えてください。
実は、もっとずっと前からの話につながるんです。戦後、GHQが進めた”農村社会の民主化”という大きな流れのなかに、女性をもっと社会に参画させていこうという方針がありました。
───戦後、ですか。
はい。当時の農村では、女性はかまどと薪でご飯を炊いて、一日の大半を家事に費やしていた。そこにガスが導入されて家事の時間が短くなり、やっと”自分の時間”が生まれたんです。農水省も旗振り役になって、都道府県の生活改良普及員という方々が新しい暮らし方を広めて回っていました。
でも家事を効率化することと、社会のなかで声を出すことはまた別の話ですよね。そのため同時期に、女性が地域の意思決定に加わっていけるような取り組みも始まったんです。
───たとえば、どんなことに取り組んだのでしょう?
農村の女性たちが、地元の食材で加工品を作って販売するグループ活動が始まりました。いわゆる婦人部の活動の原点ですね。
自分で自由に使えるお金を持てるようになるということは、単にお金の話ではなくて、農村のなかで一人の人間として自立するための第一歩だったんだと思います。

昭和63年には3月10日を”農山漁村女性の日”(当時は、農山漁村婦人の日)と定めていて、”女性の知恵・経験・技”の3つの力をトータル「10」に発揮してほしい”──だから3月10日になったそうです。
───そういった歴史的な背景が脈々と受け継がれているのですね!農業女子プロジェクトは、その延長線上に?
そうなんです。台所から始まった小さな変化が、何十年もかけてゆっくり広がってきた。農業女子プロジェクトはその流れのなかの一つ。
名前は新しいですけど、根っこにあるものは戦後からずっと変わっていないんです。

“女性のため”が、“みんなのため”になる
───パートナー企業との取り組みも気になります。
いろいろありますよ。たとえば井関農機さんは、農業女子メンバーの声を聞いて、女性にも使いやすい農業機械を開発されています。農機具に二次元コードをつけて、スマホで読み込めばすぐ使い方がわかるようにしたり、レバーの幅を女性の手でも握りやすいように調整したり。
───農機具は、やっぱり男性の体格に合わせて作られることも多そうですね。
そうなんです。カネコ総業さんが作ったスコップは、桜の花びらの形に穴が開いていて、見た目も可愛いんですけど、穴が開いていることで軽くなるんですね。鎌やクワにもグリップがついていて握りやすい。

面白いのは、こうした”女性のため”に生まれた工夫が、高齢の農家さんにも使いやすい道具になっているということ。女性就農者の使いやすさのために考えたものが、結果的に誰にでも使いやすい道具になっています。
───素敵ですね。私たちの暮らしの中にも、知らず知らずのうちに農業女子プロジェクトが携わった商品やサービスがあったりしそうです。
実はあったんですよ!過去にシャープさんとヘルシオやホットクックのメニュー開発を一緒に行いました。農業女子プロジェクトのメンバーが自分のお家で美味しく食べているレシピがヘルシオやホットクックで作れるようになっていたんです!
───そうなんですか!
個人が大手企業と直接やり取りをするってなかなか難しいと思うんですが、農業女子プロジェクトを活用してもらうことで、畑以外での経験値を積む機会にもなったようです。農業者として、一緒に企業と向き合えた体験が大きかったみたいですね。
───野菜やお米の「届け方」も大事な視点になりますもんね。
そうですね。大阪に店舗を持つ『食堂カフェpotto』を運営する株式会社haveさんは、メンバーの食材でメニューを開発して、”この食材はこういう思いで作られたんです”という背景ごと、お客さんに届けてくださっています。

人参ひとつ取っても、秋に収穫できるものをあえて雪の下に寝かせて糖度を上げた『雪下にんじん』もあれば、有機農法で丁寧に育てた人参もある。その情報も無くスーパーに並んでしまえば、どれも同じ”人参”に見えてしまう。
100円高くても、この人参を食べてみたい!と思ってもらえるには、そこにストーリーが必要で。農業女子プロジェクトの企業コラボは、そういう橋渡しの役割も担っているんだと思います。
「教える」ではなく「一緒に考える」学びの場へ
───学びの場としてはどんな活動があるのでしょう?
『NEXTラボ』というメンバーの関心の高いテーマについての勉強会を実施しています。
大切にしているのは、事務局から一方的に情報を伝えたりセミナーを開催するのではなく、メンバーの中からアンバサダーを募って、「何を学びたいですか?」と一緒に考えるところから始まること。去年は3つのテーマで全9回開催しました。
───「教えます」ではなく「学びたいことは何?」が先なんですね。
そこが一番のポイントかもしれません。
就農ルートも経験年数も年齢もバラバラだから、一人ひとりの“知りたい”が違う。でもみんなで話すうちに、「あ、それ私も知りたかった!」というテーマが浮かび上がってくる。
最近は、「家庭や地域で自分の意見をどう伝えるか」という勉強会もあって。農業の技術だけじゃなく、コミュニケーションや経営の考え方も、メンバーの声から自然に生まれてくるんですよね。

───素晴らしいですね。事務局は、自発的に動くメンバーのサポートを主に担っているのですか?
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一言でいえば、“場をしつらえる”役割です。何事もそうですが、他人から言われるよりも、自分が学びたいことは自分から取りに行く方がずっと身につきますよね。
ただ、講師をお願いするときに「農林水産省です」と言うと快諾してくれるケースも少なくありません。そういうところはうまく使ってもらえたらと思っています。
立ち上げ当初は農林水産省から女性農業者に向けて招へい文書を出していて、「お手紙が来たから行かなきゃ」っていう反応だったらしいんですよ。たった13年前ですけど、地方の女性農業者が霞が関に来ること自体が、家族や地域の理解を得るところからのスタートだった。
「農林水産省」「農業女子プロジェクト」といった“看板”があることで一歩を踏み出しやすくなった方がいれば、私たちの存在意義もあるのかなと嬉しく思います。
一人ではできないことも、縦横斜めにつながれば
───2013年の立ち上げから、今や全国に地域グループも広がっていると聞きました。
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プロジェクトの趣旨に賛同してくださった方が自発的にグループを作っていて、今は全国に9つ存在しています。毎回東京に来て活動するのは大変ですから、県単位で拠点を持ったほうがずっと動きやすいという背景もあると思います。
山形のグループには新潟や岩手から女性農業者が勉強しに来ていたりもして、事務局の手を離れたところでメンバー同士の学び合いが育っている。最近来省された来た方も「先輩農業者の話が聞けてありがたい」と言っていました。立ち上げ当初から変わらず聞こえてくる声ですね。
───教育機関との連携もあるんですよね!
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はい。『チームはぐくみ』と呼んでいます。高校や大学などの教育機関と、現場で活躍する農業女子メンバーが連携して、農業を志す学生の発掘や動機づけ、意識の向上に取り組んでいます。
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農業女子メンバーが大学に出向いてセミナーをしたり、学生がメンバーのもとで農業体験をしたり、学祭で一緒にマルシェに出店したり。男女問わず、次世代の応援団になってもらえたら嬉しい。そんな想いで実施しています。
───なるほど。農業女子プロジェクトは、企業、教育機関、地域グループ──まさに縦にも横にも斜めにもつなぐハブのような存在ですね!
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そうですね。どのプロジェクトに関しても、私たち事務局も正解を持っているわけではないので、メンバーのみなさんと一緒に試行錯誤を繰り返しながら取り組んでいます。
一人では企業や教育機関と連携したり、地域の横のつながりを増やすのが難しい場合でも、このプロジェクトがあることで、声が届く場所ができる。
あくまで主役は、農業女子メンバーの方々です。私たち事務局も、多様な一人ひとりの「やりたい」に応えられるよう一緒に考えて、一緒に動いていく。それが農業女子プロジェクトの目指したい姿だと思っています。
ぜひ実際に、農業女子プロジェクトメンバーにも話を聞いてみてください。いろんなエピソードを聞かせてくれると思いますよ!
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かまどの前で一日を終えていた女性たちが、自分の時間を手にして、仲間と加工品を作り、自分たちで生活の基盤を築きながら、少しずつ声を上げてきた。その小さな一歩一歩が何十年もかけて積み重なって、今、全国1,120人の農業女子が企業や大学や地域とつながっています。
農業女子プロジェクトは、そうやって手渡されてきたバトンの走者なのかもしれません。
次回は、実際に就農している農業女子メンバーの皆さんに会いに行きます。畑の上で、暮らしのなかで、どんな思いで農業と向き合っているのか。一人ひとりの声を、お届けしたいと思います。
農業女子プロジェクトの活動に興味を持った人は、下記のリンクからぜひ情報をチェックしてみてください!
取材・執筆: 貝津美里
ソラミドごはんでお取扱中のお米
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目的は大きく3つあります。
1つは、社会や農業界で女性農業者の存在感を高めること。2つ目は女性農業者自身の意識改革や経営力の向上。そして3つ目は、若い女性が将来を考えるときに”農業”という選択肢が当たり前にあるようにすること。
全国どの県にもメンバーがいて、30代から50代を中心に幅広い方が参加しています。
実は日本の基幹的農業従事者の平均年齢は68歳と言われていますが、農業女子プロジェクトのメンバーは20〜40代が6割を占めているんです。