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固定概念に縛られない八百屋が、日本の食を変えていく|連載「今日のごはんを支える人たち」第2回旬八青果店・左今克憲さん

    スーパーやコンビニに行けば、今日も当たり前のようにお米や野菜が並んでいる。
    でも、その“当たり前”が、これからもずっと続くとは限らないのかもしれません。

    気候の変化や人手不足、価格の高騰や物流のひっ迫──
    見えないところで、日本の“食”を支える土台はいま、少しずつ揺れています。

    それでも、毎日のごはんを届けようと力を尽くす人たちがいます。
    田んぼや市場、学校の給食室、地域の食堂……。農家さんや流通、販売、調理、教育、そして地域をつなぐ人たち。

    この連載では、そんな“ごはんを支える人たち”の声をたどりながら、これからの“食の未来”を、みんなで考えていきます。
    「おいしい」をつなぐ手は、どこからどこへ渡っているのか。そして、私たちにできることはなんだろう。
    食の裏側と、そこにあるやさしい希望を描く対話ドキュメンタリーシリーズです。

    ***

    「野菜って、こんなにおいしかったっけ?」

    そんな驚きを東京の日常に届けているのが、農家直送の旬の青果や惣菜が揃う”都市型”八百屋『旬八青果店』です。

    代表の左今克憲(さこん よしのり)さんが食農業の世界に飛び込んだきっかけは、大学時代のバイク旅。地方を巡るなかで、おいしいものが正当に評価されないまま消えていく現実を目の当たりにしました。

    都市ではもっと評価されそうな生産物が、なぜ都市の食卓に届かないのか───。

    その問いが、旬八青果店の原点にあります。おいしいものを、つくる人にも買う人にも価値ある形で届けたい。その願いに宿る”想い”と”仕組み”に迫りました。

    お話を聞かせてくれた人

    左今 克憲さん

    株式会社アグリゲート代表取締役。旬八青果店主。大学時代のバイク旅で地方と都市の食のギャップを目の当たりにし起業。「都市型八百屋」として、独自の物流網で畑の規格外品を価値ある商品へと転換する仕組みを構築。近年では生産から販売までを一気通貫で行う「三方よし」のモデルに果敢に挑戦。「『おいしい』はむずかしい」をモットーに、固定概念を打破し、日本の食の未来を切り拓く。

    日本一周の旅で知った、地方と都市の「食のギャップ」

    ───左今さんが農業や食の課題に関心を持たれたきっかけは、大学時代のバイク旅にあるそうですね。

    左今さん

    はい。日本を一周していたとき、各地の直売所にふらっと立ち寄っていたんです。そこで驚いたのが、野菜や果物の安さでした。

    生産者の方々は市場価格の低迷や後継者不足に苦しんでいて、せっかく丹精込めて育てた野菜や果物も、形が少し歪んでいるだけでそもそも規格から外れて出荷されない。

    旅先で出会った農家の方からは、「子どもには継がせたくない」という言葉をぽつりと聞かせてもらったこともありました。

    左今さん

    その一方で、都市に目を向けると、食の選択肢が思いのほか限られているんですよね。私自身、社会人になり都内に勤め始めると、コンビニ弁当か、1食1,000円以上する外食か、毎日その繰り返しで。もっと体にいいものを食べたい、野菜が食べたいと思っても、なかなかそうもいかなくて。

    地方には新鮮でおいしいものがあふれているのに、生産者は将来に不安を抱えている。都市には食を求める人がいるのに、選択肢がない。

    「これってすごくもったいないな」と感じるようになったんです。都市と地方の間で起きているギャップを埋めたい。その想いが膨らみ、新卒で就職した会社を辞め、課題解決のために起業をしようと『旬八青果店』を立ち上げました。

    始まりは、一坪の八百屋。手触り感のある食を届けたい

    ───食農業の課題を自分事として捉え、起業というアクションに移されたのはなぜですか?

    左今さん

    当時は、自分が何のために生きているのかを探していた時期でもありました。そんなときに、都市と地方の食のミスマッチという課題に出会って、「これだ!」と思ったんです。自分が人生をかけてやってみたいことを見つけられた。そんな気持ちでした。

    ───インターネットなども広まり利便性が高まる中で、なぜ店舗を持つ「都市型の青果店」という形を選んだのでしょうか。

    左今さん

    自分が手触り感を持って届けられるものにしたかった、というのが一番大きいですね。

    都内で働いていたころ、コンビニ感覚でパッと立ち寄れて、栄養バランスの取れた食事が手軽に選べたらいいのに、とずっと思っていたんです。

    左今さん

    最初は、一坪の八百屋として中目黒駅すぐの空き地にお店を出しました。

    仕事の帰り道にふらっと寄って、お値打ちな一品をさっと選べる。その気軽さこそが、都市の食の選択肢を広げることにつながると思ったんです。旬八青果店の店舗が今もあえて30坪以下の小規模にこだわっているのは、その原体験があるからです。

    畑の「もったいない」を、食卓の「お値打ち」に

    ───左今さんはバイヤーとしても、地方に足を運び生産者さんのもとを訪ね、青果を仕入れていると伺います。地方の課題として、具体的にどんなことを感じていますか?

    左今さん

    物流網の問題が大きいですね。都市に出荷するには一定の規格を満たす必要があって、そこから外れたものはそもそも届けられない。

    たとえば「この産地の桃はあまりおいしくない」というイメージを持っている人も多いんですが、実はおいしい桃が都市に届いていないだけなんです。

    ───「おいしくない」のではなく、「おいしいものが来ていない」。その違いは大きいですね。旬八青果店では規格外の野菜や果物も積極的に取り扱っていますが、それも地方と都市にある食のギャップを埋めるため、ということでしょうか?

    左今さん

    そうですね。畑に行くと、だいたい3〜5割が市場の規格外なんてこともあるんです。でも当時はそれがほとんど流通していなかった。

    だから僕らは、農家さんにとってどのように利益につながるのかを丁寧に説明しながら進めました。

    左今さん

    少々不揃いでも価格をつけて仕入れることで、これまでゼロだった収入が新たに生まれる。価値をきちんと消費者に伝えられれば、地方と都市にあったギャップも埋まるんじゃないかと思ったんです。

    ───規格外の野菜や果物を取り扱うにあたっては、消費者との丁寧なコミュニケーションも鍵になってきそうですね。

    左今さん

    お客さんに対しては、なぜこの値段なのかをわかりやすく伝えることを大切にしています。価格が安いのではなく、価値に対して「お値打ち」と感じてもらえるかどうか。そこが大事だと思うので。

    「どうやったらおいしく作れるか」といった食べ方やレシピについても、仕事帰りにさっと立ち寄るお客さんが受け取れる情報量に編集してお伝えしています。

    そのうえで、もっと背景を知りたいと思ったときにすぐ知ってもらえるよう、生産者や規格外野菜・果物の背景をポップなどを通して「ちらっと見せる」工夫もしているんです。

    2029年までに100店舗。「三方よし」の仕組みを実現する

    ───食農業界では、薄利多売なビジネスモデルも課題の一つになっていますよね。

    左今さん

    そうですね。食の業界って粗利率が低くて、働く人の給与も相対的に安くなりがちです。だから人が集まらない。その悪循環を変えていかなければなりません。

    そこに対しては、私たちも真剣に取り組んでいる最中ですが、「旬八青果店の仕組みそのもの」が解決の糸口の一つになると考えています。

    消費者は「おいしいものを安く買いたい」、生産者は「少しでも高く買ってもらいたい」、そして仕入れ・販売側は「できるだけ付加価値をつけて売りたい」。この三者の思いを同時に叶える、いわば「三方よし」の調整役を旬八青果店が担えればとビジョンを描いています。

    ───誰かが我慢するのではなく、全員が報われる仕組みを目指しているんですね。

    左今さん

    そのためにも、まずは東京の中で『旬八青果店』というブランドをしっかり浸透させたいと思っています。数字に特別な意味があるわけではないんですが、100店舗出すことをひとつの目標にしていて、2029年中には達成したいなと。

    その規模感が出てきたら、次は海外展開という選択肢と、もうひとつ——これだけの仕入れボリュームがあれば、自分たちで生産できるニッチな品目も出てくるんじゃないかと思っていて。たとえばドラゴンフルーツとか。

    左今さん

    国産のものはまだまだ規模も小さく手作業での栽培が中心なので価格が高いんですが、ちゃんとオペレーションを作れば、コストも、生産者側の負担も抑えながら付加価値をつけて、栽培・販売ができると思うんです。

    ───八百屋が、農場を持つ日が来るかもしれない。食の川上から川下まで、まるごと変えていこうとする姿勢が素敵ですね。

    左今さん

    「おいしい」はむずかしい——

    これは、旬八青果店のコピーにも入っている言葉です。

    お客さん、農家さん、流通関係者、お店を運営する私たち。旬八青果店に関わってくださるあらゆる人にとっての「おいしい」は、それぞれ少しずつ違う。

    だからこそ、考えて、悩んで、追求して、変わり続けていく。それが私たちの考える「おいしい八百屋」の姿だと思っています。固定観念にとらわれずに挑戦し続けたいですね。

    私たちが今日からできること、おいしいを「知る」という選択

    ───最後に、今日も、明日も「おいしい」が続くために、私たち生活者にできることを教えてください。

    左今さん

    「おいしいうちにたくさん食べること」ですかね。

    旬のものは、旬のうちにいただく。

    気候や市場の変動が理由で、一時的に相場が下がり市場に溢れている野菜や果物があったら、積極的に食べる。それだけでも農家さんへの貢献につながるんです。

    それと、自分が今まで見てきたものだけに縛られないでほしいなと思っていて。

    たとえばジャガイモひとつとっても、極小サイズの3Sって「食べづらそう」って思いますよね。でも皮をむかずにそのまま炒めると、むしろ楽でおいしかったりする。

    そういう小さな発見が積み重なると、買い物が楽しくなるし、食の選択肢がどんどん広がっていきます。

    左今さん

    「生産者を支えると思って買ってください!」という答えも一つの正解だと思いますが、結局、興味を持って知識をつけていかないと、なかなか行動には結びつきません。

    情報があふれている時代だからこそ、声の大きい人の言葉だけに引っ張られず、いろんな方向から知識を得てほしいなと思いますね。

    だからこそ僕らは、説教くさくなく、買い物をしながら自然と知識がついていくような店づくりと発信を心がけています。旬八青果店も食の知識が身につくチャネルのひとつとして使ってもらえたら嬉しい。

    食べ物で自分の体はつくられているわけですから、ちょっと興味を持つだけでも日常が少しずつ変わっていくと思いますよ。

    ***

    取材を終えたあと、旬八青果店でお弁当を買って帰りました。

    野菜は驚くほどシャキシャキで、噛むたびにみずみずしさが広がる。お魚もお米も、どこかほっとする味わいでおいしい。彩りの美しさに心をときめかせながら、気づけば自然と顔がゆるんでいて「満たされる」って、こういうことかもしれないと思いました。

    さっきまで聞いていた、生産者のこと、流通のこと、お店の工夫や想い。そうした背景が、ひとつのお弁当の中でちゃんとつながっているように感じられて、左今さんのお話の中にあった「おいしい」をめぐるたくさんの背景や想いが、この一食の中にちゃんと息づいている気がしました。

    “当たり前”のように並んでいる日々のごはんの裏側に、どんな人たちの手や工夫があるのか。それを少し知るだけで、いつもの食事がほんの少し愛おしくなる。

    そんなことを、このお弁当が静かに教えてくれた気がします。


    取材・執筆: 貝津美里

    ソラミドごはんでお取扱中のお米

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