お米の“甘さ”は水の恵み。清らかな水がめぐる土地で生まれるお米たち

momo farm
栃木県大田原市。那須や日光の山々を背に、清らかな水がめぐるこの土地で、代々お米づくりを続けてきたのが『momo farm』です。多様な生き物が息づく田んぼを守るため、農薬使用を「限りなくゼロに近づける」農法で米づくりをしています。
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お米の“甘さ”は水の恵み。田んぼに立ち、海にも潜る。20代で16代目になった『momo farm』生産者・西岡裕登さん
栃木県大田原市。那須や日光の山々を背に、清らかな水がめぐるこの土地で、代々お米づくりを続けてきたのが『momo farm』です。
その田んぼに、いま16代目として立つのが、2025年、20代半ばで新代表に就任した西岡裕登さん。彼の言葉から伝わってきたのは、目の前の稲だけでなく、山や水、生きものへと視線を広げた、自然全体を見渡すまなざしでした。
「お米って、その土地の“水”の影響を受けて育つものだと思っているんです」
多様な生き物が息づく田んぼ。その環境を守るため、西岡さんは農薬をただ“減らす”のではなく、「限りなくゼロに近づける」農法へと舵を切りました。
さらに冬になると、スキューバダイビングのインストラクターとして海にも潜る西岡さん。水はひとつにつながっている——。その実感こそが、西岡さんの農業の根っこにあります。
今回は、momo farmが守り継いできたこの土地のこと。西岡さんが大切にしている価値観、そして“食べる人”へ伝えたい想いを伺いました。
甘みのある水が、お米に宿る「momofarm」の味
momo farmが拠点とする栃木県大田原市・花園地区は、古くから水に恵まれてきた土地です。関東平野の北端に位置し、那須や日光の山々から流れ出た水が、幾筋も重なり合いながら集まってくる。それらの水がひとつにまとまっていく、“付け根”のような場所に花園地区はあります。
山から流れてきた水は、田んぼへと注がれ、稲を育て、やがて一粒一粒のお米へと姿を変えていく。西岡さんは、その感覚を「水の味が、お米に乗る」と表現しました。

「水が甘くておいしい。井戸水をそのまま使えるくらい、きれいな水がある地域なんですよ。豊かな水が田んぼに入り、稲を育て、やがてお米になる。momofarmのお米の味は、花園の土地の恵みそのものなんです」
さらにmomofarmでは、お米づくりに加え、宿泊や農業体験の受け入れも行っています。そこに込められているのは、「この土地を知ったうえで、お米を味わってほしい」という想いでした。
「食べておいしいなって感じて、じゃあどんな場所でつくられているんだろうって、少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいですね。お米が生まれるまでの道のりを知ることは、味わいを深めるだけじゃなくて、日々の食や自然への向き合い方にもつながっていくと思うんです。土地を知ることで、お米はもっとおいしくなる気がします」
小学3年生の作文に描いた夢。「かっこいい米農家になる」
真摯に米づくりと向き合う西岡さん───。そもそも農業を志すようになったきっかけは、なんだったのでしょうか。
「子どもながらに、田んぼに立つ祖父の姿が強く印象に残っています。その背中を見て、いつの間にか『自分も同じように働いてみたい』と思うようになっていました。それが、農業を意識した最初のきっかけでしたね」
そう語る西岡さんは、はにかみながら、遠い記憶をたどります。
「最近、小学校3年生のときの作文が出てきたんです。『将来の夢はじいちゃんみたいな、かっこいい米農家になりたい』って書いてあって。たぶん、その頃からもう、祖父への憧れみたいなものが、心の中に芽生えていたんでしょうね」

その後、西岡さんは東京農業大学へと進学。大学院まで含めた6年間、作物生産やお米づくりを専門的に学び、在学中には農薬を使わない栽培方法についても研究を重ねました。
卒業後、西岡さんはすぐに就農し、momo farmの16代目に就任しました。順風満帆なキャリアの滑り出しかと思いきや、その裏側には、幼い頃に描いた夢を叶えた達成感と、生き方に悩む、ひとりの青年の姿がありました。
水の循環に気づくきっかけは、スキューバダイビングだった
「実は、大学時代にスキューバダイビングにすっかり夢中になって。インストラクターの仕事もやりたいと思うほど、気持ちが大きくなっていったんです。実家の農家を継ぐのか、それとも新しい夢に進むのか、本当に迷いました。どちらもやりたい、どちらか一方なんて選べなかった。それなら、どちらもできる道を、自分でつくればいいんじゃないかって思ったんですよね」
農業が忙しい季節は田んぼに立ち、収穫がひと段落すると海へ向かう。いまの西岡さんは、季節の流れに身を委ねながら、農家とスキューバダイビングのインストラクターという二つの道を歩んでいます。
田んぼと海。一見、遠く離れているようでいて、その経験は、西岡さんの中でひとつにつながっていきました。
「スキューバダイビングを始めてから、水の循環を、より実感するようになったんです。山から流れた水は田んぼで使われ、川へ流れ、やがて海へと続いていく。もし田んぼで化学肥料を使いすぎれば、川の栄養バランスは崩れて、その影響は海にも及びます。海の水が蒸発して雲になり、その雨がまた山に降るわけですから、すべてが循環しているんですよね」

水は循環している───。その気づきは、やがて西岡さんの農業観を形づくっていきます。
「だからこそ、“農薬を使って当たり前”ではなくて、なるべく環境に負荷をかけないやり方を、自分なりに探していきたいと思うようになりました」
進路に迷いながら切り拓いてきた道のりは、今まさに、momo farmの米づくりへとつながっています。
生き物を大切にする、「農薬を使わないお米の栽培」への挑戦
田んぼに立つ時間も、海に潜る時間も、同じ自然の中でつながっている。そうした感覚の中、西岡さんは「生き物」への意識も強くなっていったと言います。
「農薬をたくさん入れると、やっぱりいろんな生き物が集まらなくなるんです。でも、環境にやさしい育て方を心がけていくと、今ではなかなか見られないような生き物が姿を見せてくれるようになるんですよ」
水面をすべるように動く小さな生き物や、季節ごとに現れる虫たち。そうした変化を自分の目で確かめられることが、何よりもうれしいのだと、西岡さんは穏やかに話します。そしてその実感こそが、日々田んぼに立ち続ける原動力になっていました。
「momo farmでは、先代、先々代の頃から、田んぼにできるだけ負荷をかけないという考え方を大切にしてきました。農薬や化学肥料を抑えた、いわゆる特別栽培の基準に沿った育て方で、土地と向き合いながらお米づくりを続けてきたんです」
田んぼを「管理する場所」ではなく、生き物とともに息づく場として捉えること。その姿勢は、16代目の西岡さんにも確かに受け継がれていました。
そして、さらにその先へ——。 西岡さんが次に目指したのは、「農薬を使わないお米の栽培」でした。
「雑草や虫を一律に抑え込むのではなく、田んぼ全体のバランスがどう揺れ動いているのかを見極めながら、手を入れる量やタイミングを慎重に調整していく。田んぼの中で起きている変化をひとつひとつ観察し、その都度、育て方を組み立て直していく。そんな試行錯誤の連続でした。最初から正解があるわけじゃないので、やってみて、結果を見て、また考える。その繰り返しですね」

農薬を減らしていくなかで、田んぼには少しずつ変化が現れ始めたと言います。
「いつの間にか見かけなくなった生き物が戻ってきたり、水の中の気配が変わってきたり。
そうした目に見える小さな変化の積み重ねが、確かな手応えになっていきました。人間が中心というより、そこにいるいろんな生き物たちと、一緒にお米を育てていけたらと思っています」
環境に負荷をかけない農業は、どうしても手間も時間もかかります。それでも西岡さんは、迷いを抱え込むより先に、行動に移します。
「自分の性格上、あんまり考えないというか。やりたいと思ったら、周りの言うことはあまり気にせず、やっちゃうところがあるんですよね」
深刻になりすぎず、まずはやってみる。その軽やかさが、挑戦を続ける原動力になっているのかもしれません。
一杯のごはんの向こうに、田んぼが見えるように
就農2年目を迎えた西岡さんはいま、ひとつの実感を深めています。
「実際に田んぼに立つようになってから、お米づくりと日本の暮らしが深く結びついていることを感じるようになりました。昔の人たちは、『今年もたくさん穫れますように』って願いながら、天気や水の具合に一喜一憂して、毎年を生きてきたんだろうなって」
春の代かきと田植え。
夏の草取りや水の管理。
秋、稲穂が垂れ、無事に刈り取れることを祈るような気持ちで迎える収穫の季節。
一年の暦に寄り添うように田んぼの仕事があり、その節目ごとに行事があり、実りを願う時間がある。そうした積み重ねのなかで、人々の暮らしは季節とともに形づくられてきました。天候ひとつで一年の努力が左右される不確かさも含めて、“田んぼとともに生きる”という感覚を、いま西岡さんは丁寧に感じ取っています。

「田んぼは、ただお米をつくる場所じゃない。人の暮らしや祈りが、ずっと重なってきた場所なんですよね。その感覚が、いまの自分の農業観の土台になっていると思います」
その言葉から伝わってくるのは、自然へのまっすぐなまなざしと、次の世代へ豊かな食文化を手渡していきたいという想いでした。
「最近の米騒動で、お米の値段が高すぎると感じる方も多いと思います。でも長い目で見たら、これまでが安すぎただけで、やっと昔の水準に戻ったとも言えるんですよね。一粒のお米ができるまでに、どれだけの手間と時間がかかっているのか。どれだけ自然の力に支えられているのか。僕たちも伝えていく努力をしていきたい。そしてもっと、田んぼと食卓の距離が近づいていったらいいなって思うんです」
そう穏やかに笑う西岡さんは、今日も田んぼへ足を運び、水の音に耳を澄ませながら、私たちの食卓に届くお米を育てています。
「この田んぼを守れているのは、自分ひとりの力ではありません。家族や地域の方々、研修に訪れてくれる学生、花園創に訪れてくれるお客様。さまざまな人が関わり、力を合わせてきたからこそ、momo farmの営みは続いています。田んぼに立つ時間は、作業の場であると同時に、人が集い、想いを共有する場所でもあるのだと感じています。momo farmのお米を食べた人が、どんな人が、どんな思いでつくっているんだろう?と想像してくれて、共感してくれる人が少しずつ増えていったら嬉しいですね」
朝露の残る田んぼに水が満ち、やわらかな風が稲を揺らします。その水は川へと流れ、やがて海へとつながっていきます。momo farmの営みは、いつもそんな大きな循環の中にある。
16代目として田んぼに立つ西岡さんの背中には、祖父から受け継いだ記憶と、地域の人たちの支えが重なっています。たくさんの想いに育まれて実るmomo farmのお米。 一杯のごはんを頬張るたび、遠い山と海の気配が、そっと心に広がっていくはずです。




