ソラミドstore

お買いもの

生産者

読みもの

ご案内

読みもの

おいしいお米は水と土から生まれる! 水稲栽培を支える小さなヒーロー、微生物や生物の秘密

    爽やかな風に吹かれて、優しくさわさわと揺れる緑の稲。
    夕日に染められて、黄金色に輝く稲穂のじゅうたん。
    美しい田んぼは、見ているだけで心がホッと癒やされる。
    田んぼって、まさに日本が誇る原風景だよね。

    ところで、稲はなぜ水田で栽培されるのだろう?
    畑のような乾いた土壌では育たないのかな?
    水田にはさまざまな生物が棲んでいるというけれど、稲にどんな影響を与えているんだろう?

    その疑問を解くために、ごはんが大好きなソラミドごはんくんが、水田に生息する微生物の生態について研究する名古屋大学の浅川晋先生と、高品質な水稲生産や有機栽培における生態機能の解明と利用を研究する新潟食料農業大学の伊藤豊彰先生にお話を伺いました。

    水田の生態系や水田そのものの構造についてなど、今まで知らなかったことを知ることであらためて自然の循環のすばらしさに気づくことができました。

    お話を聞かせてくれた人

    浅川晋 先生

    農学博士。名古屋大学 農学部 大学院生命農学研究科 応用生命科学専攻 応用生命科学 教授。水田土壌生態系に生息する微生物の生態を研究されている。

    伊藤豊彰 先生

    農学博士。新潟食料農業大学 食料産業学部 教授。⼟壌肥料学および農業における環境科学について研究されている。

    聞き手: ソラミドごはんくん

    ごはんが大好き!
    ちょっぴりヒツジに似たごはんの妖精。好奇心旺盛で、ごはんのことなら何でも知りたい!聞きたい!見てみたい!と思っている。

    稲の栄養となる窒素を作る微生物の偉大な働きとは?

    ごはんくん

    こんにちは。今日は、水田に棲む生物や生態系についてお話を伺いに聞きました。
    そもそも、水田にはどのような生物が棲んでいるのでしょうか?

    浅川先生

    肉眼で見える生物と、肉眼では見えない微生物が棲んでいます。微生物はバクテリアやカビ、アメーバなどの原生動物といった生物であり、たくさんいます。この微生物が水田の土壌で重要な働きをします。

    ごはんくん

    具体的にどんな働きをするのですか?

    伊藤先生

    まず知っておきたいのは、稲だけではなくあらゆる植物には栄養分が必要ということです。その中でも特に重要なのは窒素です。植物はアンモニウムイオンか硝酸イオンのどちらかで窒素を吸収して成長しますが、それを作るのが微生物なんです。

    浅川先生

    水田では、稲は無機態のアンモニウムイオンで窒素を吸収します。無機態とは二酸化炭素など一部の単純な化合物を除いた炭素を含む化合物のことをいいますが、一般的に土壌には無機態の窒素は少ない。ではどうやって供給されるかというと、土壌中にある有機物の中の窒素を微生物が分解して無機態窒素に変換するのです。だから微生物がいないと稲は基本的に育つことができませんね。

    ごはんくん

    へえ、微生物は植物の命にとって大切な生き物なんですね!微生物はどんな土壌にもいるんですか?

    浅川先生

    はい、量や種類の違いはありますが、土壌と呼ばれるところには少なからずいます。微生物の力がないと岩石が細かくなって土壌にはならないので、ほぼ含まれていると考えていいでしょう。

    ごはんくん

    水田の土壌と、畑のように水がない土壌では、棲んでいる微生物の種類は違うのですか?

    浅川先生

    大きく違いますね。水稲栽培では、土壌は水の下にあります。水の中では酸素の移動速度が大気中の約10,000分の1になるので酸素が土壌に浸透しなくなり、酸素が欠乏してしまいます。専門的に言えば嫌気状態になってしまうということです。だから、酸素がなくても生きていける微生物が主に活動します。
    反対に畑では、土壌中に酸素があるので、酸素を使って活動する好気性の微生物が主に活動します。

    土を食べ、土を肥沃にし微生物の働きを助ける、イトミミズのすごい力

    ごはんくん

    同じ土の中でも、酸素のあるなしで棲む微生物が違うんですね。ところで、田んぼには「水中ミミズ」という生き物がよくいると聞いたことがあります。水中ミミズは嫌気性の微生物なのですか?

    伊藤先生

    水中ミミズは肉眼で見えるので、微生物ではなく動物ですね。細いのでイトミミズとも呼ばれます。イトミミズは田んぼだけではなく沼地や栄養分の多い下水にも棲んでいます。陸上のミミズと生態は似ていますが、種としては全く違いますよ。イトミミズは水の中が好きで、水分が多くないと弱るので畑にはいません。

    ごはんくん

    そっかぁ、イトミミズは微生物とはまた別の生き物なんですね。イトミミズも、水田で何か良い働きをするのですか?

    伊藤先生

    イトミミズが土を食べると、土の中の有機物の分解が進んで、窒素がたくさん出てくるようになります。微生物の働きを助けているという感じでしょうか。雑草は出ないし、土から窒素がたくさん出るから稲はよく育ちます。だからイトミミズは稲にとってもとても大切な生き物です。

    イトミミズは頭を土に入れて、土の中の微生物を餌として始終食べています。そして土の上に出た尾部から糞(土)を出します。農薬を使わない有機栽培ではしばしば雑草が問題になりますよね。これは実験でわかったことですが、イトミミズがたくさんいると、土の中の雑草の種がその糞で埋まっていきます。雑草の種は光がないと発芽しないので、雑草は生えにくくなります。不耕起栽培(土を耕さずに栽培する農法)の田んぼで同じ実験をしたところ、イトミミズが土をたくさん食べて糞をどんどん上に出すので、田んぼの表面にあった去年の藁が5cmも沈んでいました。イトミミズが藁を土にすき込んだ、ということですね。

    ごはんくん

    イトミミズも、田んぼにとって大切な生き物なんですね。でも、イトミミズは土と一緒に微生物を食べちゃうんですよね。それって大丈夫なんですか……? 微生物が減って、稲が育ちにくくなっちゃったりしないのかな……。

    伊藤先生

    大丈夫。微生物は食べられるとびっくりしてもっと増えるんですよ。「これはやばいぞ」って。それに、イトミミズが微生物を食べるといっても全部は食べきれないので、残渣が出ます。その残渣をまた微生物が食べるので、どんどん窒素が出てくるのです。まさしく生態系の不思議──生きもののつながりの素晴らしい働き、ですね。

    ごはんくん

    そうか、イトミミズが食べきれなくて死んでしまった微生物を、また微生物が食べるってことですね。本当に生態系ですね!

    さまざまな生物を増やすには有機物を増やすことが重要

    ごはんくん

    田んぼにとって大切な土壌生物や微生物は、どうやったらもっと増えるのですか?

    浅川先生

    農薬を減らす、有機肥料で栽培するなどいろいろな方法があります。有機物を用いれば、微生物は増えます。有機物は微生物のエサだからです。でも化学肥料を施しているところとそうではないところを比べると、実は施しているところのほうが微生物は多かったりする。これはどういうことかというと、化学肥料を使ったことで作物の収穫量が多くなり、収穫した後に土の中に残る残渣、つまり作物の死骸が多くなります。それが有機物となって、微生物が増えるのです。

    伊藤先生

    イトミミズでも似たようなことがいえます。とある地域の田んぼで研究をしたところ、ある田んぼはイトミミズがたくさんいたけれど、ある田んぼは3年経っても増えませんでした。増えなかった農家は、土壌の有機物を維持するためにはとても大切な藁を畜産農家にすべて畜産農家に売っていたため、藁が土の中に戻らず、有機物が減ってしまっていたのです。その結果、微生物をエサにするイトミミズが減ったのだと考えられます。

    ごはんくん

    化学肥料も藁も、陰ながら有機物を維持する役目を担っているんですね。

    伊藤先生

    そうです。いろいろな土壌生物を増やすためには有機物がとても大切ですが、特に藁はすごく大切です。藁さえ入れれば田んぼの有機物は維持されると考えられています。これが田んぼの偉大なところ。田んぼに有機物が多いと微生物や土壌生物が増え、稲も健やかに育ちます。

    ごはんくん

    話を聞いていると、有機物の重要性がよくわかります。ところで田んぼには水が張られていますが、その水も田んぼの土と同じように生物や微生物にとっては大切なんでしょうか?

    伊藤先生

    はい。田んぼの水には、藍藻(らんそう)という微生物がたくさんいます。藍藻は光合成と窒素固定によって空気中の窒素を有機物にすることができ、その結果、それをエサにする生物や微生物が増えます。
    さらに田んぼの土の中には鉄が多く、鉄還元菌という微生物が働くと、土の中に窒素が増えることがわかってきました。鉄還元菌は酸素がない条件で働くので、水があって酸素が少ない水田では、鉄還元菌がうまく作用して窒素が増えやすいですね。

    浅川先生

    本当にそうですね。水田にとって水の力は大きいですね。藍藻や鉄還元菌、これらの働きが窒素を増やすことで稲の生育につながっています。

    ごはんくん

    なるほど!みんなで窒素を作りながら、稲を助けているわけですね!

    浅川先生

    そうです。それに田んぼの水は川や用水路から流れてくるので、いくらかの養分が入っています。それも稲にとってはいいことなのです。畑は水を張らないので、こうした作用はほとんど起きません。

    生態系を守り、自然の脅威から暮らしを守る。水田は“日本の宝”

    ごはんくん

    本当に水田はすごいシステムですね。
    そういえば、たまに冬に水が張っている田んぼを見かけますが、それは生き物の生態系を守るためだったりするんですか?

    伊藤先生

    そのとおりです。冬に水を張ることは生物多様性の保全につながります。

    浅川先生

    水田に水を貯めておくことは土地の保全にもつながっています。昨今の豪雨も、田んぼで一時的に貯留することで洪水を防ぐことができる、まさに田んぼは小さなダムです。水を貯めるために田んぼを平らにすることで、土壌の侵食も防ぎます。また田んぼのあぜも水が流れ出るのを防ぐ役割を果たしています。昔の人は山の上まで棚田を作りましたよね。これも国土を守るというすばらしい役割を持っています。

    ごはんくん

    すごいなあ。田んぼは、私たちが毎日食べるお米を作るだけではなかったんですね。

    伊藤先生

    そう、私たちの暮らしも守ってくれます。田んぼは日本の宝です。

    ごはんくん

    こうした命の巡りの話を聞いていると、すべての生き物が共存できる環境が重要ということがわかります。最後に、微生物や他の生物、土壌が共存していくのに大切なこととはどんなことですか?

    浅川先生

    まずは今日話したように、命のサイクルや自然の循環で生態系が成り立っていることを、私たちみんなが理解することが大切だと思います。

    伊藤先生

    ピンポイント的にいえば、土の中の有機物を大切にしてあげることでしょうか。有機物は微生物や他の生物のエサになって、分解された窒素は稲のエサになります。有機物を堆肥や藁できちんと土に戻してあげることで、生き物のサイクルも大切にすることができ、私たちの糧となるお米もたくさん取れるようになります。

    ごはんくん

    稲の成長にはさまざまな微生物や生物の働きが大切だということ、水田のシステムがその働きを支えていること、またこれらの生態系がおいしいお米の源になっているということがよくわかりました!浅川先生、伊藤先生、ありがとうございました!

    こちらの記事もおすすめ