あの日のごはん帖#06「小さな満月をかじる夜」

誰の心にもある「記憶にのこる味」。
水彩画家・nawが、水彩画とともにその思い出を綴ります。
ほっと心がほどけるような、懐かしいごはんの物語をお届けします。
テーマを決めて、夜を囲む
社会人になってから仲良くなった、サキさん。
わたしたちは定期的に、「夜会」と呼んでいる集まりを開いている。
ただごはんを食べるだけではなく、
毎回、なにかしらテーマを決めるのがお決まりだ。
季節の食材だったり、
飲みたいお酒だったり、
いま気になっている味だったり。
その日の夜を、
ふたりで小さく編集していくみたいで楽しい。
この日のテーマは、「金柑」。
岡山を旅したとき、
ふらりと立ち寄ったスーパーで見つけた金柑を、
お土産として持ち帰ってきたのだった。
ころんと丸い金柑は、
テーブルの上で、まるで小さな満月みたいに見えた。
金柑と、和紅茶の香り
夜会では、
おつまみ担当とお酒担当に分かれることもあるし、
基本的にはそれぞれが
「いま食べたいもの」「飲みたいもの」を持ち寄る。
この日は、
金柑と和紅茶のクレープをつくった。
生地には細かくした和紅茶を練り込み、
金柑は軽くソテーする。
ゆるめに泡立てた生クリームを添えて、
最後にローズマリーをひと枝。
ナイフを入れるたび、
ふわりと香りが立ちのぼる。
金柑のほろ苦さと甘み、
和紅茶のやさしい香りが混ざり合って、
冬の終わりみたいな味がした。
もうひとつは、
金柑とモッツァレラのマリネ。
白ワインビネガーとオリーブオイルをたっぷり使って、
爽やかなのに、どこかコクがある。
小さな満月みたいな金柑を頬ばるたび、
口の中に明るい香りが広がった。
シードルと、少し辛すぎるアラビアータ
お酒は、
仙禽 のナチュール・シードル。
果実感たっぷりのシードルは、
酸味と、鼻を抜けるりんごの香りが心地いい。
金柑にもよく合って、
気づけばグラスがどんどん空いていく。
それから、大好きなペンネアラビアータもつくった。
トマトをたっぷり。
唐辛子は、ちょっと入れすぎなくらい。
ひーひー言いながら食べるくらいが、
わたしにはちょうどいい。
辛さに笑ったり、
お酒を注ぎ足したり、
取り留めのない話をしたり。
夜会という名前をつけているけれど、
結局のところ、
こういう時間が好きなのだと思う。
おいしい時間を重ねながら
旅先のスーパーで見つけた金柑が、
こうして誰かと囲む夜につながっていく。
季節の食材を囲むと、
ちゃんと今を生きている感じがする。
テーブルの上には、
満月みたいな金柑。
その明るい色を眺めながら、
また次の季節も、
こうして夜を囲めたらいいなと思った。

福井県在住の水彩画家。
おいしく、たのしく、ゆるやかに水彩画を描いています。
視覚に障がいを持つ私だからこそ見える世界と色彩を、そっとおすそ分けできたらと思っています。
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