土と植物にふれる暮らしが、身も心も健康にしてくれた
工房とめ
「工房とめ」さんは、益子の土を使った軽やかな器を作り続けています。
使い込むうちに表情が変わっていく土ものの器。長く大切に使いたくなるのも魅力のひとつです。土ものの器には「貫入」という細かいひびが入っていて、使っていくうちに茶渋やお料理の水分が染み込み、少しずつ表情が出てきます。ぜひ、使うごとに少しずつ変化する風合いもお楽しみください。
東京から益子へ移住し陶芸家の道へ
土と植物にふれる暮らしが、身も心も健康にしてくれた
陶器市で有名な益子の地で暮らしながら、「工房とめ」として器を制作する本橋里美さん。東京で生まれ育ち、大人になってから旅行で訪れた益子の自然に惹かれ、移住を決めました。移住の経緯や、自然に囲まれて暮らすことの喜びについて伺います。
旅行で訪れてから、1ヶ月後には益子での暮らしがスタート
本橋さんが益子への移住を決めたのは、2011年。20代半ばのころでした。
東京・昭島市に生まれ、多摩地域の百貨店で働いてきましたが、東京で働くことにどことなく違和感を覚えていたのだとか。
そんなとき、たまたま旅行で訪れた益子の街で、焼き物の原料屋さんに“スタッフ募集”の貼り紙があるのを目にします。それを見た瞬間、「仕事を辞めてこっちに来ちゃおう」と、運命的にひらめいたのだそう。
旅行中に滞在していた宿のおじさんに話をしてみると、知り合いの工房を紹介してもらえることに。
ちょうど数日後に休みの日があったので、以前美術を学んでいたときに描いた日本画などの資料を持って、再び益子を訪れました。
無事に工房へ入れることが決まってからは、移住まであっという間。
すぐに自動車の免許をとって、会社を辞めて、1ヶ月後には益子での暮らしが始まりました。
「小さいころから、なぜか田舎が大好きだったんです。東京のなかでも自然豊かな地域で生まれ育ったこともあって、暇さえあれば葉っぱを摘んだり、泥団子をつくったりして遊んでいました。祖父が植木屋さんで、仕事について行かせてもらったりもしていて。だから、コンクリートに囲まれた環境から久しぶりに一歩離れて益子へ旅行に来たらすごくしっくりきて、もう『住みたい!』って思っちゃいました」
土や植物にふれて、のびのびと暮らすことの喜び
工房での修行中は、とにかく焼き物について学んだそう。
土をこねることから始まり、ろくろをまわし…と段階的に練習を積み重ねます。週に一度は親方に見てもらって、また練習の繰り返し。ひたすら土にさわる毎日でした。
その後、工房の先輩だったご主人と結婚。
4年ほど修行したころ、出産を機に独立することになります。
今では子育てをされながら陶芸家として活動を続ける本橋さん。
これからさらにつくっていきたいのは、より“暮らし”によりそったものたち。気軽にお花を飾れる一輪挿しなど、家でも自然を楽しめるような器だったり、土鍋など、日々の食事をもっとナチュラルにしてくれるものの制作を考えているそうです。
焼き物以外にも、田んぼでお米を、畑で野菜をつくったり、草木染めをしたり…
自然に囲まれながら、やりたいと思ったことにどんどん取り組まれています。
やっぱり、土や植物にふれることが肌に合うのだとか。
「じつは高校生のころにうつ病や摂食障害の診断を受けて、入院したことがありました。大人になってからもお薬を飲み続けてきたんです。でも、こっちで暮らすようになって、自然にふれて、おいしいものを食べてのびのびと生活していたら、全部治っちゃいました。もう、本当になんともないんですよ」
ものづくり以外にもご自身の実体験をもとに、自然と暮らすことのよさを伝える活動も少しずつ始めているそう。
乳児湿疹など、子育てに関する悩みを自然療法で改善させれてきた経験も広めているところです。
焼き物以外にも、植物を使った染め物などナチュラルなものづくりをされています。
益子での暮らしは、とにかく好奇心を満たしてくれるという本橋さん。
「人間は、自分の心に嘘をつきながら生きるとどんどん苦しくなっちゃうから。直感のままに、やりたいと思ったことへ自由にチャレンジしたいなって思います」
自然に囲まれた暮らしが、身も心も健康に導いてくれたのでした。
これからも、工房とめさんとしてのものづくりや、自然のなかでの生活についての発信が楽しみです。
取材・執筆:笹沼杏佳
写真:工房とめ(提供)