10代続く米農家を継ぎ、こだわりの米作りに情熱を注ぐ。
しまさき農園
しまさき農園は、山形県南陽市、置賜盆地と呼ばれる地域で、250年に渡り専業農家としてお米づくりを営んでいます。代表であり10代目の島崎真人さんは、お父様の代から農薬や除草剤などをできるだけ使わない自然に近い状態での昔ながらの農業にこだわっています。時間と手間を惜しまず、「おいしいお米づくり」にかける姿勢は、40年以上揺らぎません。お米そのものの、ありのままのおいしさをぜひお楽しみください。
しまさき農園さんの商品一覧
10代続く米農家を継ぎ、こだわりの米作りに情熱を注ぐ。
『しまさき農園』生産者・島崎真人さん
奥羽山脈をはじめ2,000mを越える山々に囲まれた山形県南陽市。この地域は、置賜盆地(おきたまぼんち)と呼ばれています。冬には数メートルにも及ぶ雪が降り積もり、ミネラルを豊富に含む水源として土地を潤していきます。
山形県を代表するブランド米である『つや姫』は、ここ置賜盆地で栽培されている代表的なお米です。明治時代に山形県の篤農家、阿部亀治が発見育成したお米『亀の尾』のDNAを受け継ぎ、10年の開発期間を経て誕生しました。その名の通り、炊き上がりの「艶」は食べる人の心をたちまち魅了します。
今回ご紹介する『しまさき農園』さんも、ここ置賜盆地で250年以上に渡り米づくりを営む専業農家。
現在、22ヘクタール(1ヘクタール=10,000㎡)という広大な農地で、『つや姫』や、低アミロース米の『ミルキークイーン』などを栽培、年間100トンにも及ぶ美味しいお米を消費者に届けています。
『しまさき農園』さんのお米づくりにかける想いやこだわりなどについて、10代目・代表の島崎真人さんにお聞きしました。
おいしいお米につながる、土づくり
お父様の代から40年以上に渡り、「土づくり」に力を注いできた『しまさき農園』。地元の畜産農家と提携し開発した、完熟もみ殻堆肥、4種類の有機質肥料、海藻系ミネラル肥料、自家製の米ぬか肥料などを田んぼにすき込み、じっくりと時間をかけて行っています。
40年以上前と言えば、収穫量を上げ、より多くのお米を作るということが当たり前だった時代。
なぜ、土づくりにこだわるようになったのでしょうか。
「ちょうどその頃、産直ブームが起こりました。物流も進化したこともあり、従来のお米を出荷する形から、お客様に直接届けられるようになったんです。そうなると当然、おいしいお米しか選んでもらえません。そこで、有機肥料を使い安心安全にもこだわったお米作りをしようと、生産方法も変えていきました」
当時幼かった島崎さんの記憶には、土日の休みもなく、田んぼでいつも忙しく働くお父様の姿があったといいます。そして、日々すくすくと成長していく稲の様子も。
周囲からの期待もあり、地元の農業高校、農業大学へ進学した島崎さん。
当時の心境を、こう語ります。
「実は正直、農業を継ぐ意思はそこまでありませんでした。若いときは音楽活動もやっていて、それを続けたいと思っていたので、大学卒業後は就職の道を選びました。いくつか仕事を経験しましたが、最後に就いたのが農薬を販売する会社。農薬は農業にとって安定生産をしていく上で大切な資材ですが、極力農薬に頼らない実家の米作りとのギャップを感じていました」
就農を決意した、先輩からの一言「好きなことも続ければいい」
その頃、結婚と音楽活動を辞めたことも重なり、島崎さんの就農に対する思いが一歩前進します。一方で、これからの暮らしを「農業」だけに絞ってもいいのか、という迷いもあったといいます。そんなとき、ある先輩から掛けられた思いがけない言葉が、島崎さんの背中をさらに押すことになりました。
「農家だから農業だけにこだわる必要はない。
絵を描いたり、音楽を楽しんだり、
農業をしながら自分がやりたいと思うことも続けたらいい」
他のことを全て諦めて農業に専念しないといけない。そう思っていた島崎さんの心を解いてくれる一言でした。そして就農。15年経った今では先輩からもらった言葉が心のよりどころとなり「農業が趣味になってきた」と思うほど、そのおもしろさに魅了されているといいます。
主流ではない、あえて手間と時間を掛けたお米作り
ここ置賜盆地は、盆地特有の寒暖差の大きい気候を利用し、米作りはもちろん野菜や果物を栽培する農家も多くあります。そしてそれらと並び大きな産業となっているのが畜産。この地で育てられる『米澤牛』は、日本を代表するブランド和牛です。
『しまさき農園』は、その畜産農家から出る良質な堆肥をもみ殻とブレンドし、土にすき込んでいます。また、地元の鶏糞を利用した肥料もオリジナルで開発し散布。「地域の資源こそがお米づくりのベース」という信念から取り組む「循環型農業」です。
ただ、これらの有機肥料は、化学肥料のように短期間で効果が出るものではありません。じっくりと時間をかけることで、徐々に良質な土が作られていく。おいしいお米を育てるための大事な基盤です。
そしてもう一つ信念を持って続けているのが、お父様の代から続いている「自然に近い状態での農業」です。できるだけ農薬に頼らず、稲本来の力を引き出す。ただそうなると必然的に、草や虫に悩まされ大変な労力を伴います。
「病気にかからない農薬、一度撒くだけで効果が得られる肥料など、楽に米作りができる技術は年々進化しています。しかし使用方法や天候によっては、味わいや風味も落ちてしまう。病気に弱い『農薬を使用するのが前提の稲作』になってしまいます」
ここ数年で農業資材は高騰。さらにお米の価格も低くなってきています。いかにコストダウンしながら少人数で農業を続けていくかということが、農業界では主流の考え方。ですがあえて、その主流を選ばないと島崎さんは話します。
「産地から美味しいお米を届けたいんです。そのおかげで、お客様の声が直接耳に届きます。『おいしかった』と言ってもらえることは、なにより嬉しく励みになりますね。だからこそ、手間と時間をかけてでも、品質にこだわった昔ながらの米づくりをしていきたいと思っています」
収穫で終わらないお米づくり
春の苗作りから始まり、秋の刈り入れまで約半年。田んぼの管理や、田植えの準備などを考えると、1年がかりの作業です。収穫したお米は、次の年の収穫まで継続して販売するため、お米作りの結果は、年を跨いでやっと現れると言えます。そしてそれは、いつ何が起こるかもわからない自然相手の仕事。不安はないのでしょうか。
「不安はありませんが、強い想いのいる仕事だと思います。種を蒔いてから収穫するまで、機械や資材などのコストをかけながら、田んぼに向かう日々が続きます。その間に、台風など自然の影響を受けることも。思い通りにいかないことも珍しくありません。でもそれらを乗り越えてやっと、美味しいお米をみなさんに食卓に届けることができたときは喜びもひと塩ですね」
品質が良く、おいしいお米をお客様に届けたい。その想いから『しまさき農園』では、お米の味や品質にも大きく影響する「保管」と「精米」にも力を注いでいます。収穫したお米は玄米のまま、温度17℃、湿度60%の低温倉庫で、品種や圃場ごとに通年保管。そして、お客様から注文を受けた後に、色彩選別機や石抜き機、金属探知機、異物除去セパレータ、割れ米を取り除くセレクターなどでお米を選別、最後に炊き上がりの味に影響する精米器と白米選別機で調節します。
「お米は収穫したら終わりではありません。お客様にお米をお届けするまでまだ半分。そこから通年保管、玄米選別、精米、袋詰め、梱包、配送と続きます。美味しいお米をお届けするため、これらの設備にも過剰なくらい力を注いでいます。生産も精米発送に関しても高品質高食味のお米を目指しています。作ったお米を『どう届けるか』にもこだわり続けたいです」
引き継ぎ、続けることへの覚悟
全国的にも急激に増えている耕作放棄地の問題。理由は、農業従事者の高齢化と後継者の不足にあります。実際、若手である島崎さんにも、やむを得ず田んぼを手放す高齢者から声がかかり、農地を引き継ぐことも珍しくありません。
いったん、人の手が入らなくなった田んぼは急速に荒廃化が進み、元の状態に戻すには長い年月と膨大な費用が必要になります。そうならないためにも、それらの農地を引き継ぎ、自分も含めた農家が、お米作りを「続ける」ことが大切だと島崎さんは話します。
「育てたお米を購入してくれるお客様がいることで、しまさき農園ならではの米作りを『続けていく』ことができる。それをひしひしと感じる日々です」
就農して15年。島崎さんのこだわりと信念がプラスの循環を生み出し、年々『しまさき農園』のお米を選んでくれるお客様は増えています。全国においしいお米がたくさんある中で、あえて選んでもらっている。それが励みとなり「より一層、お客様の想いに応えたい」と力強く話します。
「昔ながらの米作りにこだわり、時間をかけて丁寧に作業を行っていますので、 品質の高さには自信があります。しかし誇大な広告などで実際より大きく見せたいとは思っていません。逆に謙遜もせず、美味しいお米を自信を持ってお届けしたいと思っています。なにより、全国の数あるお米の中から選んでくれたお客様に喜んでもらえるよう頑張っていきたいです」
お父様の代から始まった自然に近い状態で昔ながらの農業を続けていくこと。そこに揺るがない自信があるからこそ、お米そのものの、ありのままの価値をお客様に感じてもらうことができる。『しまさき農園』の姿勢や想いは、着実にお客様のもとに届いています。
「学生の頃は音楽活動をしていたと話しましたが、農業と音楽活動は似ているなと思うんです。お米を生産し全国の食卓に届けること。曲やCDを作り聴いてくれる人へ届けること。どちらも試行錯誤しながら、一から作り上げる作業。これからも手を緩めず、自信のある『いいもの』 をとことん追求していきたいですね」
取材/執筆:福島和加子
編集:貝津美里
写真:しまさき農園提供