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どうしておにぎりは日本人のソウルフードになったの?おにぎりの魅力を探る

    日本人なら誰もが食べたことのある、おにぎり。

    手軽に食べられる食事の定番として人々の生活に馴染み、日常のお弁当やイベントごとなど、さまざまな場面で食べられています。

    もはや私たちにとって当たり前の存在になっていますが、いつから登場し、どのように広まってきたのか、そしてどうしてここまで愛されるようになったのか……知っている人は意外と少ない気がします。

    おにぎりは、なぜ私たち日本人のソウルフードになったのでしょうか?

    今回は、一般社団法人おにぎり協会代表の中村祐介さんに、ソラミドごはんくんがインタビュー。おにぎりの歴史や、日本だけでなく世界にも広まり始めているおにぎりの魅力を教えていただきました。

    中村祐介さん

    一般社団法人おにぎり協会代表理事。

    おにぎりを日本が誇る「ファーストフード」であり「スローフード」であり「ソウルフード」であると定義し、その文化的背景も含めて国内外に普及させていくことを目的に、2014年、一般社団法人おにぎり協会を設立。おにぎりイベントや、「おにぎりサミット」を開催。好きなおにぎりは「梅」「明太子」。

    ソラミドごはんくん

    ごはんが大好き!
    ちょっぴりヒツジに似たごはんの妖精。好奇心旺盛で、ごはんのことなら何でも知りたい!聞きたい!見てみたい!と思っている。

    おにぎりの化石が発掘されたのがはじまり!?おにぎりの起源

    ごはんくん

    こんにちは。今日は、おにぎりはなぜ、日本人のソウルフードになったのかを教えてもらいにきました。そもそもおにぎりが食べられるようになったのはいつ頃なんですか?

    中村さん

    おにぎりの起源は明確ではありませんが、弥生時代頃と考えられています。なぜ判明したかというと、その時代におにぎり状の化石が見つかったからなんです。

    ごはんくん

    おにぎり状の化石なんてあったんですね!

    中村さん

    そうなんです!石川県旧鹿西町(ろくせいまち/現在は中能登町)にある「杉谷チャノバタケ遺跡」で、もち米を蒸して固めて焼かれた円錐状のチマキが発掘されました。お供え物の可能性もありますが、弥生時代からお米をまとめて食べる文化はあったと考えられていますよ。

    ごはんくん

    そんなに前から、お米をまとめて食べる文化があったんですね。当時から「おにぎり」と呼ばれていたんでしょうか?

    中村さん

    いえ、おにぎりと呼ばれるようになったのは、もっと先のお話です。

    712年に完成した古事記には「強飯(こわいい)」という言葉が登場します。強飯とは甑(こしき)という道具でお米を蒸したもので、源氏物語では強飯を握ったものを「屯食(とんじき)」と呼んでいました。同書・桐壺の巻では、貴族が簡単な宴を催す際に、お手伝いに屯食を振る舞う様子が描かれています。

    さらに、和銅6年(西暦713年)に作成された常盤国風土記には「握飯(にぎりいい)」という言葉が出てきます。風土記は、その国の産物や地名、伝説などの情報を細かくまとめた書物です。つまり、常盤国では握り飯を習慣的に食べていた、ということになりますね。

    携行食として、誰かと共に…おにぎりが、さまざまな用途で食べられるように

    ごはんくん

    今のように、おにぎりを個人が持ち歩き、食べるようになったのはいつ頃でしょうか?

    中村さん

    それはまだまだずっと先の話ですね。その前に1467年に応仁の乱があり、その後から徐々に戦国時代へと流れが変わっていきましたよね。戦国時代には、おにぎりが陣中食となったり、携帯保存食として干飯(お米を炊いた後で乾燥させたもの)として使われるようになりました。握り飯には、味噌で味付けをしたり、梅干しと一緒に食べたりしていたようです。このころは冷蔵庫などはありませんから、保存しやすいものが使われていますね。

    ごはんくん

    今のおにぎりは具材のバリエーションが豊富ですが、それは冷蔵庫の普及や保存性が上がったことで叶ったのですね。

    中村さん

    戦国時代はおにぎりが勝負飯でしたが、江戸時代となり、平和になってくると旅のお弁当的な役割を果たすようになります。

    例えば、歌川広重の藤沢宿の浮世絵に、おにぎりのようなものを食べている人々の様子が描かれています。旅の途中でしょうか。人々が敷物の上に座り、美味しそうにおにぎりを食べている姿が印象的です。

    広重『東海道五十三次細見図会 藤沢』,村鉄. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1309950 (参照 2024-07-18)
    ごはんくん

    表情を見ても、楽しそうな雰囲気が伝わってきますね!
    この時代、庶民の方々が旅に出ることは一生に一度と言われるほど貴重な機会だったそうですね。

    中村さん

    また、日本人に馴染みあるお花見は、古くから宮中で盛んに行われてきていました。農村では神事として、花が咲くころに山で飲食する風習もあります。そんなお花見が都市部の庶民にも広がっていくのは、江戸時代からです。特に8代将軍・徳川吉宗が大規模な植樹をし、花見の大衆化に貢献しました。江戸時代は料理に関する多くの指南書も数多く出版され、「料理早指南(りょうりはやしなん)」には花見弁当の料理方法などが書かれており、そこにはおにぎりがみっしりと詰まっています。

    おにぎりが「外で買える」時代へ。「ご馳走おにぎり」の元祖として「天むす」も登場

    ごはんくん

    そういえば、今では当たり前に専門店やコンビニでおにぎりが購入できますよね。現在のように、「お店でおにぎりを買う」文化が広まってきた流れを知りたいです!

    中村さん

    昔は必ず誰かしらが家にいて、家事や料理などを行っていました。外食ももちろんありましたが、日常の料理といえば、内食(※)が一般的です。もちろん、江戸の頃から蕎麦や寿司は外で食べたりもしていましたが、おにぎりは内食のものでした。日本料理のお店などで最後にご飯をいただき、それが残るとおにぎりにしてお持たせしてくれるようなことはありましたが、専門店の登場には長い時間がかかります。

    (※)…食材を家で調理して食べること

    ごはんくん

    そうだったんですね。じゃあ、おにぎり屋さんが登場し始めたのは、いつごろなんですか?

    中村さん

    東京で一番古いおにぎり屋さんといわれるおにぎり浅草宿六が、1954年(昭和29年)開業。東京の大行列店、おにぎり大塚ぼんごの創業が、1960年(昭和35年)です。このあたりから、おにぎり専門店が登場し始めます。長い時を経て、おにぎりを外で買って食べる文化が少しずつ芽生え始めたんです。その後、スーパーや百貨店でも売られるようになり、1970年代になると、コンビニエンスストアの登場で、多くのお店で手軽に購入できるようになりました。

    ごはんくん

    今のようにおにぎりを手軽に買えるようになったのは、結構最近のことだったんですね!

    中村さん

    1980年代になると、皆さんもご存じの辛子明太子が、全国的におにぎりやパスタの具として扱われるようになったり、三重県津市生まれ、名古屋育ちの「天むす」が芸能人などの手土産として使われるようになり、話題になったりしました。「ご馳走おにぎり」のはしりですね。

    人の縁をつなぎ、心に残る存在。おにぎりが愛される秘密、ここにあり。

    ごはんくん

    おにぎりは子どもや大人にかかわらず、誰もが作れるシンプルな料理ですが、どうしてあんなに美味しいと感じるのでしょうか?

    中村さん

    お米と具材を一口で食べられるのは大きいですよね。おまけに、お米の甘味と海苔の香りがちょうど良く交わって、頬張った瞬間幸せな気持ちになれる。意外と、ほかにない料理なのではないでしょうか。

    ごはんくん

    米と具材のマリアージュに集中して味わえるのは嬉しいですよねぇ。

    中村さん

    余談ですが、地域によっておにぎりに使う海苔の種類が異なります。たとえば東京は焼き海苔文化ですが、関西は味付け海苔文化。同じコンビニが販売している同じおにぎりでも海苔は違っていて、関西地方のコンビニに行くと、一部味付け海苔のおにぎりがあるんですよ。

    ごはんくん

    味付け海苔のおにぎり、美味しそうです!いろんな地方のおにぎりを食べ比べてみるのも楽しそうですね。

    ここまでおにぎりの歴史やおにぎりの美味しさについて教えていただきましたが、日本人におにぎりがここまで愛されている理由は一体何なのでしょうか?

    中村さん

    みんなが思い出を持ち、その好みを誰も否定しない。そんな文化が根付いているのが「おにぎり」だからではないでしょうか。「思い出のお寿司はありますか?」と聞くと、パッと出てくる人は少ないかもしれませんが、おにぎりは不思議と、思い出と紐づいて記憶に残っているんですよね。これが日本人のソウルフードと言われる理由だと思います。

    私自身、中学生の頃に拒食症のような症状が出てしまう時期がありました。そのとき、母親が「食べられなくてもいいから」と、毎日おにぎりを置いてくれていたんです。なかなか全部食べられなかったんですが、ある日少し食べることができたとき、とてつもなく美味しかった。

    思い出すと、私も小さい頃から何かイベントがあると、当たり前のようにおにぎりを食べていました。改めてなぜ、こんなに愛されているのか考えたときに、味だけではなく、思い出の存在も大きいことに気づいたんですよね。

    ごはんくん

    確かに!昔、運動会のときに友達のおにぎりをもらったことがありますが、家庭によって味がまったく違ったのを思い出しました。

    中村さん

    加えて、災害時や復興支援の炊き出しの際には、おにぎりが提供されることも多いんです。

    阪神・淡路大震災の際、被災地で、ボランティアによるおにぎりの炊き出しが行われたことがありました。このことを忘れないために、1月17日は「おむすびの日」と制定されたんですよ。

    このようにおにぎりは、避難所等で誰かを助ける際や、お腹を空かせている人のためにポンと手軽に渡せるもの。誰かを思って握ることも少なくないのではないでしょうか。そんな、人の心に自然と残る存在だからこそ、おにぎりは愛されているのではないかと思っています。

    ごはんくん

    誰かを思って握る…おにぎりって、本当に素敵な存在ですね。

    日本を超えて、世界へ羽ばたく「Onigiri」

    ごはんくん

    最近では、世界でもおにぎりが注目されているそうですね?

    中村さん

    そうなんです。注目されていることがわかる証明として一例を挙げると、以前からオックスフォード英語辞典に掲載されていた「Rice ball」に加え、最近「Onigiri」が追加登録されたんです。

    ごはんくん

    「Onigiri」が世界共通言語になるのも夢ではないですね…!なぜ、ここまでおにぎりが注目を浴びているのでしょうか?

    中村さん

    まずは、手軽にテイクアウトできる点が挙げられますね。

    ごはんくん

    テイクアウトできる食べ物は、おにぎり以外にもありそうですが世界では違うんですか?

    中村さん

    日本では、お寿司やパスタ、牛丼など、さまざまなものをテイクアウトできますよね。しかし海外(おもにヨーロッパ)では、サンドイッチやピザ、ケバブくらい。テイクアウトできる料理のバリエーションがとても少ないんです。

    日本食ブームや小麦の価格高騰に加えて、おにぎりは持ち運びやすく比較的安価、しかも美味しいという理由から注目を浴びており、世界各地でおにぎり専門店が増えています。

    ごはんくん

    日本のようにお寿司や牛丼など、さまざまな料理をテイクアウトできるのは、当たり前ではないんですね…! たとえば、どこの国でおにぎりの需要が増えていますか?

    中村さん

    欧米では、特にニーズが高まっています。米食文化があまりなく、目新しさもありますからね。米食文化のあるアジア圏でも、おにぎり専門店が増えてきています。台湾などにもあるんですよ。

    もうひとつ、おにぎりが海外で人気な理由として、お米以外の具材は自由なことが挙げられます。たとえばイタリアには、お肉がたくさん入ったパニーニや、サーモンが入ったパニーニなど、各家庭の具材がある。いわば、「自分のパニーニ」が存在するんですよ。これって、おにぎりと似ていますよね?

    ごはんくん

    たしかに…!

    中村さん

    自分の好みに合わせて味付けを選べるという自由度の高さも、世界に受け入れられている理由と言えるでしょう。

    実際に、ハワイアンスタイルのおにぎり屋さんなど、海外の料理と組み合わせた専門店も東京にオープンしています。このように、海外のスタイルにアレンジされたおにぎりが再び日本に逆輸入で戻ってくるような状況が、さらに加速化していくでしょう。

    ごはんくん

    新しいスタイルのおにぎりがさらにたくさん登場してくると思うと、とても楽しみです!

    中村さん

    日本人にとっておにぎりは当たり前の存在であり、誰もが作れるものと思っているかもしれません。でもその思い込みをなくしてほしいですね。なかなか理解しにくいかもしれませんが、お米をサッと炊いて、おにぎりを作れることは、日本人ならではのとてつもないスキルなんですよ。

    そのことを日本人にはぜひ誇りに思ってほしいし、海外の方々とお話する際は、おにぎりを作れることを積極的にアピールしていただけたらと思います。

    ごはんくん

    おにぎりの存在が身近すぎて、おにぎりの可能性にまったく気づけていませんでした!中村さんの言う通り、おにぎりが当たり前のように作れることを誇りに持ち、海外にも発信していこうと思います!中村さん、おにぎりについて教えていただきありがとうございました!